経済・相場

「魔女の日」はプロトレーダーも厳重警戒 クアドラプル・ウィッチングとは?

目次

市場関係者が警戒する「魔女が魔法を四重にかける日」

米国株市場には3カ月おきの第3金曜日、「魔女(ウィッチ/Witch)」が出現します。

この日、魔女がかける魔法によって株式市場だけでなく為替市場も荒れ、思いもよらない急変、乱高下をみせることがあります

そのためウォール街の株式や為替の市場関係者はその数日前から意識して、事前に必要な手を打って警戒しています。

想定外の損失を被るリスクを怖がって、プロのトレーダーの中には休暇をとる人もいるくらいです。

その日のことを「クアドラプル・ウィッチング」(Quadruple Witching/別名クアトロ・デー)と言っています。

魔女の正体は、先物取引、オプション取引の「満期日(決済日)」です。それは次のようになっています。

●株式指数先物取引(Index Future) 3月、6月、9月、12月の第3金曜日

●株価指数オプション取引(Index Option) 毎月第3金曜日

●個別株先物取引 (Stock Future) 毎月第3金曜日

●個別株オプション取引 (Stock Option) 毎週金曜日

この4つが、3月、6月、9月、12月の第3金曜日になると全部重なることからクアドラプルと呼んでいます。

トイレットペーパーの一重巻をシングル、二重巻をダブルと言いますが、英語では三重はトリプルで、四重はクアドラプル(Quadruple)です。

ウィッチング(Witching)とは魔女の活動、つまり魔法をかけることです。

ですから直訳すれば「魔女が魔法を四重にかける日」となります。

クアドラプル・ウィッチングの日に株が売られるメカニズム

クアドラプル・ウィッチングの日にはそれぞれの先物取引、オプション取引の特別清算指数(SQ)が算出され、それに基づいてあらかじめ決められた価格で決済をしなければならないというルールがあります。

もしも損失が出ていたらそれを補てんしなければなりません。

たとえば大手の機関投資家が先物・オプションの決済日に損失を補てんするために、大量に保有しているAという会社の株の一部を売って現金化したら、売られたA社の株価は下がります。

これが「先物・オプションの需給要因」と言われるもので、経済の情勢や企業業績とは関係なく売られて株価が下がるので、まさに想定外の損失を被るリスクがあるわけです。

この日はニューヨーク証券取引所の売買高が急増しますが、売買が増えるのは株式に限らず、債券やETFや投資信託(ミーチュアル・ファンド)や金など、換金性の高い金融資産全般にわたっています。

なお、クアドラプル・ウィッチングの「小型版」が、1月、2月、4月、5月、7月、8月、10月、11月の第3金曜日にやってきます

この日は株式指数先物取引以外の株価指数オプション取引、個別株先物取引、個別株オプション取引の3つの満期日(決済日)が重なるので「トリプル・ウィッチング」と呼ばれたり、毎月決済の株価指数オプション取引と個別株先物取引をとりあげて「ダブル・ウィッチング」と呼ばれたりします。

クアドラプル・ウィッチングほどではありませんが、ニューヨーク株式市場は要警戒の日です。

直近7回でNYダウ3ケタ安が6回もある「下げの特異日」

さて、クアドラプル・ウィッチングはニューヨーク株式市場にどの程度の影響を及ぼすのでしょうか?

直近の該当日のNYダウ終値の前日比と、S&P500指数の変動幅に連動してその数字が大きくなる「VIX恐怖指数」の終値を見てみましょう。

           NYダウ終値  VIX恐怖指数終値

●2020年3月20日   -913.21ドル    66.04

●2020年6月19日   -234.13ドル    35.12

●2020年9月18日   -244.56ドル    25.83

●2020年12月18日  -124.32ドル     21.57

●2021年3月19日   -234.33ドル    20.95 

●2021年6月18日   -533.37ドル    20.70 

●2021年9月17日   +33.18ドル      25.71   

直近7回は1勝6敗で、3ケタの下落が6回もあるという「下げの特異日」です。

NYダウがこの1年半の間に81.4%も上昇したことを考えると、日本流に言っても「鬼門」の日だと言えるでしょう。

VIX恐怖指数は2020年3月20日はダントツの年間最高値で、直近の2021年6月18日も9月17日も月間最高値を記録しました。次回は12月17日です。

魔法をあやつる魔女にあえて立ち向かう「勇者」もいる

こんな恐怖のクアドラプル・ウィッチングですが、最近ではマーケットの激動を少しでも抑えようと、以前は4つが同日、同時刻だった先物取引、オプション取引の「満期の時刻」を少しずつずらして、取引の集中が起きないよう工夫されています。

魔女が魔法をかけ、鬼もすむ「下げの特異日」は想定外の損失を被るリスクがあるということは、カラ売りをかけ逆張りするなどして、デイトレードのような超短期売買で想定外の利益をあげるチャンスもまた、転がっていることを意味します。

腕と度胸と逃げ足に自信があるトレーダーの中には、あえて嵐の日に相場を張って魔女に立ち向かい、恐ろしい魔法を逆手に取って成果をあげる「勇者」もまた、いるのです。(執筆:寺尾淳)

寺尾 淳

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経済ジャーナリスト。同志社大学法学部法律学科卒。「Forbes日本版」(ぎょうせい)を中心に経済、経営の分野を幅広くカバーしてきた。『株のしくみ』(ナツメ社)など株式投資関連の著書もあり。米国株投資経験は1993年以来、IBMなどIT、ネット関連が中心で、AmazonやGoogleはその立ち上がりから見てきた。毎朝、取引終了直後にNY市場のレポートをツイッターで配信中。

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